
Text_VAZAAR Editorial
70年分の時間ごと、縫い直す。ボロボロの 50sスカジャンが蘇るまで。
VAZAAR REPAIR REPORT
古い服の傷や汚れを、すべて「味」と片づけることはできない。少しのほつれなら表情として楽しめるが、着るたびにダメージが広がりそうなら話は別だ。そんな古着を、これからも楽しむにはどうすればいいのか。今回、VAZAARがリペアを依頼したのは、50sのスカジャン。お願いしたのは、東京・江戸川区でvintage古着の修復を手がける戸部亮太さん。ボロボロだった一着が再び着られるまで、その工程を追いかけた。
custom & repair shop TB/戸部亮太
1979年、千葉県生まれ。東京都江戸川区在住。「custom&repair shop TB」主宰。10代からアメカジに親しみ、本格的にヴィンテージ古着へ傾倒。大学を離れて都内のセレクトショップに入社した後、千葉県のヴィンテージショップで店長を務めていた、現在の「VINTAGE SHOP JOHNNY」オーナーと出会う。その人柄と古着への姿勢に惹かれ、「この人のもとで働きたい」と同店へ。数年間ともに働き、JOHNNYの独立時には自身も退社し、サポートして行く道を選んだ。服飾の専門教育は受けず、直さなければ着られない古着と向き合いながら、リペア技術を独学で習得。ヴィンテージ古着を長く残し、より多くの人にアメカジを楽しんでもらうことを大切に、リペアとカスタムを手がける。愛車はハーレーダビッドソンのショベルヘッドチョッパー。
今回の主役は、この一着。
今回リペアを依頼したのは、1950年代頃につくられた両面サテンのスカジャン。ブラック面は、胸元に鷲と虎、背面には松と鷲を大胆に刺繍。ブルー面には鳥居や日本の風景、背面には鷲と都市名を配したジャパンマップが描かれている。表と裏でまるで別の一着のように楽しめる、刺繍だけを見ても十分に魅力的なスカジャンだ。
ただし、近くで見ると状態はなかなかハード。サテン全体に染みやくすみが広がり、ステッチのほつれや過去の補修跡も点在。ポケットやリブ、センタージップまわりにも傷みがあり、長年蓄積した独特の匂いも残っていた。このヤレた雰囲気もヴィンテージの格好よさではあるけれど、これから先も着続けるなら、一度きちんと手を入れた方がいい。そこで、この一着を戸部さんに託すことにした。



まずは、全部ほどくところから。
戸部さんと状態を確認した結果、部分的な補修ではなく、中綿をすべて抜いて各パーツを洗浄し、中綿なしの状態で組み直す「フルリフォーム」を行うことになった。
最初の工程は、スカジャンの解体。ブルーサテン側のステッチをほどいて一枚ずつのパーツに分け、内部の中綿を取り出していく。ポケットの縫い目に残った細かな綿まで丁寧に取り除き、再構築するときには、できる限り元のステッチ穴を生かして縫い直す。
服を開いてみると、表から眺めているだけでは分からなかった、約70年分の時間が現れた。サテンの裏側には染みや汚れが広がり、取り出した中綿には細かな埃や繊維くず、独特の匂いが染み込んでいたという。すべてを一度ほどき、洗い、直し、中綿のない一着として再び組み上げる。ここから、スカジャンのフルリフォームが始まった。




一枚ずつ、丁寧に洗う。
解体後は、すべてのパーツを一枚ずつ洗浄していく。黒サテンの袖には、白く傷んだ部分を隠すように、何らかの塗料が塗られていた。水を含ませると当て布へ色が移り、部分的な染み抜きだけでは対応できないことが分かったという。そこで、ブルーとブラック、それぞれのサテンを独立して洗浄。黒い袖からは洗濯水がみるみる黒くなり、何度もすすぎを繰り返した。取り外した襟や袖口、裾のリブも、揉み洗いと叩き洗いで丁寧に汚れを落としていく。
洗い終えたパーツは一枚ずつ乾かし、半乾きの状態でスチーム成形。長年染み付いていた汚れや匂いを取り除きながら、生地を少しずつ本来の形へ戻していった。今回のフルリフォームで、最も時間を要したのがこの洗浄作業。完成後には見えなくなる工程だが、着心地を取り戻すためには欠かせない仕事だ。







もう一度、一着に戻す。
洗浄を終えると、いよいよリペアと再構築へ。ほどけたステッチを縫い直し、襟や脇下に残っていた古い補修もやり直す。ポケットやリブ、センタージップまわりを補修し、刺繍のほつれは余分な糸を切って、残った糸を裏側へ回して処理した。できる限り元のステッチ穴を生かしながら、中綿のない一着として組み直していく。ただ壊れた場所を塞ぐのではなく、服全体のバランスまで見ながら、本来の姿へ戻していく。そこまでやって、ようやく今回のフルリフォームは完成する。







新品には戻さない。
ヴィンテージのリペアは、何もかもきれいにすればいいわけではない。サテンの焼けや褪色、刺繍の表情は、このスカジャンが過ごしてきた時間そのもの。残すべきものと直すべきもの、あえて手を加えない方がいい場所まで見極めながら、その一着に合った方法を選んでいく。今回も、経年変化によって生まれた表情は残しつつ、着用に支障のあるダメージを中心に手が加えられた。全解体から洗浄、補修、再構築まで。長い工程を経て、ボロボロだったスカジャンはVAZAARのもとへ戻ってきた。比較写真を見れば、その違いは一目瞭然。でも、本当に変わったのは見た目だけではない。生地に触れたときの感覚や匂い、サテンが擦れる音まで、また心地よく楽しめるようになった。
古い服を新品に戻すのではなく、その服らしさを残したまま、もう一度着たくなる状態へ。リペアとは、服の時間を巻き戻すことではない。その続きを、また楽しめるようにする仕事なのだ。その仕事の細部は、戸部さんのInstagramでも詳しく紹介されている。




SHOP INFORMATION
custom & repair shop TB/戸部亮太
東京・小岩の「VINTAGE SHOP JOHNNY」内に工房を構え、ヴィンテージ古着を中心としたリペアやカスタムを手がける戸部亮太さん。その仕事を支えているのが、約30年にわたる戸部さんの古着人生だ。今年23年目を迎えた「VINTAGE SHOP JOHNNY」の歩みと、古着に人生を懸けるオーナーの背中をそばで見ながら、一着ごとに異なる生地や構造、傷み方と向き合ってきた。生地や縫製、ダメージの状態は、一着ごとに違う。同じ年代やモデルであっても、これまでの着られ方によって必要な作業は変わってくる。持ち主が気になる細部を先回りして捉える、「痒いところに手が届く」感覚と洞察も、その積み重ねから生まれたもの。できることだけでなく、「やらない方がいいこと」まで見極め、その服に合った方法を提案するのが戸部さんの仕事だ。
二度と同じものがつくられることのないヴィンテージを、できるだけ良い状態で持ち主の手元に残すために。一着ずつ異なる古い服と向き合いながら、リペアとカスタムを行っている。

所在地:東京都江戸川区南小岩8丁目17−11 宝ビル 1F 「VINTAGE SHOP JOHNNY」内
営業時間:13:00〜20:00
Instagram:@repair_tb
note:repair_tb
相談・見積もり:InstagramのDMより受付
VAZAARで取り扱い中のスカジャン/スーベニアジャケット









